東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)17号 判決
二 原告は、本願商標を構成する人物像と「TITAN」の文字を見れば、「TITAN」はギリシヤ神話にいう巨人族のことであることが想像でき、この巨人族は、わが国においては、「チタン」又は「テイタン」と呼ばれるのが一般で、「タイタン」と呼ばれるのは通例でないから、本願商標から「タイタン」の称呼は生じないと主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第二号証の二、同乙第一号証ないし第五号証の各一ないし三によれば、原告のいうギリシヤ神話の右巨人族は、わが国においては、一般に、「チタン」と呼ばれることがあるとともに、しばしば「タイタン」とも呼ばれていることが認められるので、原告の右主張は採用できない。
そして、本願商標は、別紙第一に示すとおりの図形と文字の組合せから成つているところ、その構成の中央部に「TITAN」の文字が、他の文字に比して最も大きく顕著に表示されているから、簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、この「TITAN」の文字から生ずる称呼のみをもつて取引に資することも少くないものと認められる。そして、前掲乙第一号証ないし第五号証の各一ないし三及び成立に争いのない乙第六号証の一ないし三によれば、「TITAN」の語は、わが国において、「チタン」と発音されることもあるが、「タイタン」と読まれることがないとは、とうていいえず、一般にしばしば「タイタン」とも発音されていることが認められるので、本願商標は、「タイタン」の称呼をも生ずると認めるのが相当である。
原告は、本願商標の指定商品(無機工業薬品、有機工業薬品)の取引界では原告チタン工業株式会社が著名であるから、本願商標は原告の出所に係るものと認識され、本願商標から「タイタン」の称呼が生ずることはない、と主張するけれども、その事実を認めるべき証拠はない。
三 つぎに、原告は、「タイタン」の称呼は「タイター」の称呼と非類似である、と主張する。
引用商標から「タイター」の称呼が生ずることは、原告の自認するところであるところ、「タイタン」と「タイター」の称呼は、その称呼の識別上重要な部分を占める語頭からの「タイタ」の各音を同じくし、異なるところは、末尾における「ン」と「タ」の長音「ー」のみである。そして、「ン」の音は鼻音として弱音であり、「タ」の長音は「タ」と発音したままの状態を伸ばす音であつて、いずれも、前に位置する「タ」の音に吸収され、僅かに余韻が感じられる程度のもので明確には聴き取り難いものである。したがつて、この差異は、両称呼の全体に及ぼす影響において微々たるものというべく、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは彼此相紛らわしいものといわざるをえない。「タイタン」の称呼と「タイター」の称呼は類似の称呼というべきである。
原告は、本願商標から生ずる「タイタン」の称呼は「ギリシヤ神話の巨人像」という固有の観念を有するから「タ」「イ」「タ」「ン」と明確に発音されて、「タイター」の称呼とは容易に区別され、非類似である、と主張するけれども、本願商標が常に「ギリシヤ神話の巨人像」という固有の観念を伴い「タイタン」と称呼されるとは限らないし(「TITAN」の文字のみからこの商標を「タイタン」と称呼することも当然にありうることである。)、仮にそのような固有の観念を伴うことが時にあるとしても、常に「タ」「イ」「タ」「ン」と明確に発音されるとは限らず、指定商品の取引上「タイタン」と一連に発音されることもしばしばありうることであるから、原告の右主張は採用できない。
四 さらに、原告は、本願商標と引用商標についての従前の経緯及び他の登録事例を指摘して、本願商標と引用商標が非類似であることは明らかである、と主張するけれども、商標の類否は、類否が問題とされる商標相互の対比において判断されるべきことであるし、原告主張の事情が本件についての判断を拘束するわけのものでもないから、その主張は採用し難い。
五 以上のとおり、本願商標と引用商標とはその称呼において類似するので類似の商標というべきものであり、本願商標の指定商品(第一類「無機工業薬品、有機工業薬品」)が引用商標の指定商品(第一類「化学品(他の類に属するものを除く。)、薬剤、医療補助品」)に包含されることは原告においても明らかに争わないところである。
そうすれば、本願商標は商標法第四条第一項第一一号の規定に該当し、商標登録を受けることができないものであつて、本件審決に原告主張のような違法のかどは存しない。
六 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却する。
〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。
別紙
第一
<省略>
第二
<省略>